学習性無気力の話➁

続きです。

 

ある生徒の話


昔、明らかに学習性無気力だと見て分かる子がいた。

 

その子は親御さんと「毎日自習に行く」と約束をして塾に毎日来ていたが、学習量はとても少ない子だった。学校が終わってから3時間くらいは塾にいるのだが、その中でプリント1枚程度をこなすのがやっとという状態だった。自習室の座席に座り、何十分も何もせず過ごす。持っているシャーペンを分解し、また組み立てる。消しゴムを小さくちぎる。それを繰り返す。

 

そして、ネガティブな話を始めると止まらなくなった。母親や祖母に毎日怒られている、「なんでもっと点を取れないのか」と言われる、時には手を上げられる等々、聞いているほうが辛くなるような話を何度も何度も繰り返し話した。聞いている講師のほうが参ってしまうので、話し始めたら代わって私が相手になっていた。

 

正直言って原因は分かっていたつもりだった。面談時に、やんわりとその話を保護者にした。しかし後日、その子から「なんで私が怒られなきゃいけないのよ」と言われたと聞いた。私の取った方法は完全に悪手だった。かえってその子を追い詰める形になってしまったのだ。結局高校受験が終わり、その子は高校に進学していった。しかし、私のこの時の後悔はいまだに続いている。たかが塾講師の踏み込んで良い領域、その境界線というものを、いまだに引きあぐねている。