生徒を叱らないことと、大切に思わないことは別

塾の環境を預かるものとして、それを乱す出来事に対してはしっかりと対処しなければならないと思っています。それがもくせい塾に通ってくれている生徒たちに対する礼儀です。

 

以前、雇われ塾長でやっていた個別指導塾の自習室は生徒のおしゃべりがあったり、禁止されている飲食がなされていたりと、あまり良い環境に保てませんでした。それは、私が塾長として弱く、生徒にそれを見抜かれていたからだと思います。「どうせちょっと注意されるだけだし。」と、簡単に言うと舐められていたのですね。

 

私がザワザワしている自習室に入っていって、それを見た生徒たちが一瞬おしゃべりを止める。そして私が出ていくとまたザワザワし出す。それを1日に何度も何度もやっていました。そして業務が終わったあと、自習室に行き、机の上に残された空のペットボトルや、そこに落ちているはずのないお菓子の包み紙を黙って拾ったりしていました。

 

毎年当然のように、「自習室がうるさくて自習の邪魔になる」というクレームが生徒から入ってきます。そのたびに自習室の巡回を増やし、「塾長に見つかったら面倒だから真面目にやってるフリしよ。」という生徒の演技を見に行きます。今思い返すと、根本は何も変えることができずにただの対処療法(にすらなっていない)でした。

 

当時雇われ塾長だった私は、生徒の数を増やし、売り上げを増やすことで評価を受けてお給料をもらっていました。会社なので利益を求めるのが当然で、社員はその為にいます。ここに異論は全くありません。ですがそれを意識し過ぎていたのか、一人でも多く生徒に入塾してもらいたい。そして1度入ったらできるだけ長く続けてもらいたい。そんな思いに縛られていました。今考えると上司は理解のある方で、問題行動を起こす生徒の相談などもできてはいました。が、それでも私は生徒を減らし自分の「評価」が下がることを恐れていたんですね。だから塾生が不利益を被る可能性のある生徒であっても辞めさせることはできず、ただ「なぁなぁ」の注意にとどめてしまっていたのでした。生徒を辞めさせて、悪い評判が立ってしまったらどうしよう。そんなことも考えていたかも知れません。本当に恥ずかしいことをしていました。もちろん当時の会社にいた他の塾長の方々がみんなこんな感じだったわけではなく、私はただただ当時の自分を恥じ入るだけです。

 

そんなわけで、「自習室がうるさくて」ということを勇気を出して言ってくれた生徒に対しては、今思うと、むしろそっちのほうをなだめるような対応をしていたのかも知れません。真っ当なほうに我慢してくれなんて、事なかれ主義の極みです。塾生に対し仁義を貫くことから逃げていました。

 

そういった過去の反省があり、今のもくせい塾では「勉強に対して真摯でないこと」に対してうるさいです。自習中の居眠り・おしゃべり、理由の無い遅刻・欠席、勉強をサボる等々。これらの行為は他の生徒にも影響が出ます。一生懸命やっている生徒たちの中にこういった状態の子がいると目立ちます。そしてその様子を見てしまうとやる気が殺がれます。私は勉強の最終到達点のひとつは、「他者への想像力」の育成だと思っています。塾はみんなで使うもの。そこには過ごし方だって関係してくる。自分の頑張りは他の誰かに必ず伝わる。だからこそ、周りの目を気にして過ごして欲しいのです。

 

今でも生徒を叱るのには勇気がいります。この注意は必要か、ここまで厳しくする必要はあるのか。おそらく厳しすぎて辞めていった生徒も結構います。もっと甘くしていれば残った子たちです。そういう子たちには、申し訳なかったなと思っています。それは、厳しくして申し訳なかったではなく、そういう子が伸びる環境が作れなくて申し訳なかったという意味です。

 

私自身、叱った後良い気持ちであることは当然ありません。気分が落ち込み、「注意しなければ良かったかな」という思いにグラッと傾きかけることもあります。叱ったりしないほうが楽です。生徒を叱った日はなどは精神的にどっと疲れて、その日の仕事が終わりません。でも生徒への接し方を「なぁなぁ」にしてしまった瞬間から、教室の空気はどんどん汚れだし、その汚れを嫌がって真面目に勉強する生徒が少しずつ減っていきます。教室から託児室への変化の始まりです。それは嫌だ、そうはしたくないと思って踏ん張っています。

 

ですから「ウチの子叱らないで。」と言われるのはちょっと困ります。もちろん何もなければ叱りません。しかし「学力を伸ばすこと」を求めて塾に来た以上、その妨げとなる行為は修正せねばなりません。それは、自分だけに及ぶならばともかく、他の生徒に影響が出ることに対してはできるだけその場限りで修正し切る必要が出てきます。だから叱ります。幸い、今の塾生保護者の方にこういうことをおっしゃる方はおらず、「どんどんやっちゃって下さい!」とまで言って下さる方もいらっしゃいます。ですから、自分の正しいと思うことを貫けていて感謝の限りです。感謝して、あの時の惨めな自分を忘れないようにしていきたいと思います。

 

今通ってくれている生徒たちに対しては、勉強に対して真摯でいて欲しいと思っています。ですが時にそれが揺らぐことだってあります。誰だってそうだと思います。私だって、仕事に対してずっと真摯な気持ちでいられているかというとそんなことはありません。ですから、生徒がそういう時はきちんと叱ります。それを受け止めて、また軌道修正して戻ってきてくれればいいなと思っています。戻ってきてくれた生徒に対しては全力で抱きしめてあげたいと思っています。(セクハラになりかねないので実際にはできませんが。心の中だけで。)ここは「みんなが頑張る場」、もくせい塾です。そのマインドを共有してくれる生徒を全力で応援しています。