つたない聴き手

私は耳が悪い。いわゆる「音痴」ってやつだ。

 

一番はじめにそれを感じたのは、「虫の鳴き声」だったと思う。小学校に入学して間もなくの頃、昆虫図鑑か何かを読んでいたときに鳴き声に関する特集があった。

 

スズムシは「リーン、リーン」、クツワムシは「カシャカシャ」、マツムシは「チンチロリン」…当時は音声データを気軽に聞ける環境なんてなかったので、こうした擬音語が紙面に踊っていた。それを見て自分も「鳴き声を聞き分けたい!」と思い、夜の原っぱに出かけて行ったのだが、

 

「…全部同じに聞こえる」

 

となったのだ。そういえば夏に、セミの鳴き声を聞き分けようとしたときも全部アブラゼミに聞こえたんだったっけ。

 

私は音痴だ。

 

その後中学生になる頃、音楽を聴くのが大好きになった。「自分でもやってみたい!」となって、ゴミ捨て場に落ちていたギターを拾って教本片手に練習した。コードは押さえられるようになったけれど、合わせて歌うことができなかった。私にはリズム感も無かった。学校の音楽の授業、合奏では通知表に5が付いたが、ひとりずつ檀上で歌うテストのある合唱の授業では3が付いた。

 

私は音痴だ、ついでにリズム感も無い。

 

先日、夕方に車を走らせていたら、

 

「リーン、リーン」

 

と、コオロギでは無い虫の鳴き声が聞こえてきて、

 

「あれ?スズムシ?」

 

となった。千葉県の郊外のほうだった。音痴でリズム感も無いけれど、綺麗な音への興味はまだまだ尽きない。